コラム

『MUG Day』紹介事例から見えた、マーケティング部門と営業部門の連携のヒント

2023年12月4日に開催されたAdobe Marketo Engage(以下、Marketo)ユーザー会『MUG Day』に参加した。

今回はコロナ禍以降、3回目のオフライン開催。約300名のMarketoユーザーと7社のMarketoパートナー企業が集まった今回のMUG Dayも大盛況。MUG DayのメイントピックであるMarketoユーザー事例紹介とグループディスカッションは、会場に集まったユーザーの距離を近づけ、お互いの課題や悩みを共有するきっかけとなった。

本コラムでは『MUG Day』で紹介されていたユーザー事例と、私自身が感じたことをまとめる。

※関連ナレッジ資料※
既存製品の提供価値を再定義するバリュープロポジションのつくり方 をダウンロード

行動制限が緩和されても、営業部門との連携強化を継続

約半年ぶりのMarketoユーザー会『MUG Day』は、品川インターシティホールで開催された。

新型コロナウイルスの影響による行動制限の緩和に伴い、参加者のほとんどがマスクを外していた。そのおかげか、グループディスカッションの際にも活発にコミュニケーションがおこなわれている様子だった。

事例紹介された「営業部門とマーケティング部門の連携」をテーマに、Marketo担当者同士で悩みが共有された。収益への貢献を証明しづらいマーケティング部門の担当者は、部門間連携に強い課題意識があるのだと感じた。

当日のプログラム

時間 実施内容
14:00 オープニング
14:10 プロダクトアップデート
14:45 ユーザー事例1:吉見 梓 氏、高橋 栞 氏|サイボウズ株式会社
16:00 ユーザー事例2:小泉 晋之介 氏、大石 幸太 氏|アステラス製薬株式会社
17:10 ネットワーキング(交流タイム)

ユーザー事例1:営業がフォローしたくなる顧客接点創出とSQLの最大化|サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)は吉見 梓 氏、高橋 栞 氏が登壇し、同社事業戦略室 SalesOpsの施策で営業活動を効率化した事例を共有した。

登壇者

事業戦略室 SalesOps 吉見 梓 氏
事業戦略室 SalesOps 高橋 栞 氏

事例概要

ノンプログラミングで業務アプリを自作できるクラウドサービス『kintone』を提供しているサイボウズでは、Marketoをマーケティング部門、CS部門、営業部門で使用している。今回は営業活動を効率化するためのMarketo活用事例が共有された。

1つ目のテーマは「営業アラートとリードリサイクル」。
リードを十分に精査せず営業アプローチしてしまうと、顧客体験を低下させてしまうのはもちろん、商談機会を逃すことにもなる。サイボウズは当初このような問題を抱え、顧客体験価値を高めつつ売上を上げられるための環境整備が必要、としてプロジェクトがスタートした。

環境整備の第一歩として、営業とすり合わせをしたうえでリードインポートする条件を展示会・セミナー・問い合わせ・資料請求といったチャネルごとに設定した。
営業にとっての利便性を高めるために、ホットリードが発生した際にはリアルタイムで通知しつつ、後から検索できるように。さらに、トライアル申し込みが発生したときは「Backyardを確認してください」、セミナー終了後には「事後アンケートを確認してください」というように、営業が次に取るべきアクションも含めて通知することで営業活動の効率化を実現した。

2つ目のテーマは「セミナーリードの営業送客」。
マーケティング部門のよくある悩みである「リードを渡しても営業がフォローしてくれない」「セミナーを実施しても営業活動につながりにくい」といった問題をサイボウズも抱えていた。これらの問題を解決するために、セミナー企画時からリードクオリフィケーションの定義を営業とすり合わせ、営業のターゲットとなるホットリードを送客するようにした。

具体的には、以下のような取り組みをおこなった。

・営業の担当顧客がセミナーに参加した際に通知をする
・オンデマンドセミナーを8割以上視聴したリードに対してインサイドセールスが連絡し、ホットリードと判定した場合のみ営業に連携する

このような取り組みを通じて営業の生産性を向上させた。

所感

どのようなリードであれば営業がフォローしたくなるのか、マーケティング部門として営業部門とのすり合わせを密におこなったうえでプロジェクトを進めている点が印象的だった。

取り上げられた2つのテーマは共通して、営業に対して送る不要な通知を減らし、営業生産性を高めるためのものだった。このような取り組みができる前提として、マーケティング部門と営業部門がともに”自社の事業拡大”にフォーカスしている必要がある。そのうえで、両部門でシステム、施策の両面で丁寧にコミュニケーションを取っていたことが成功要因といえるだろう。

マーケティング部門と営業部門が対立せず、ともに事業貢献への高い意識を持って協働することは、当たり前のようだが実現できていない企業は多い。
単にMarketoの活用事例として捉えるだけではなく、企業の文化や風土が生み出した結果として捉えることで、より本質的なマーケテイング活動の参考事例となるように感じた。

グループディスカッションの様子

マーケティング部門にとって営業部門との連携は永遠の課題と感じる人も多いのではないだろうか。紹介された事例のようにうまく営業部門と連携して成果につなげる取り組みについて、グループでディスカッションをおこなった。

グループディスカッションのなかで、やはり営業部門との連携の難しさについての声が多く上がった。
事前のすり合わせができていない状態でマーケティング部門からリードを送客しても、営業担当者を困惑させてしまう。マーケティング部門と営業部門で共通の課題を定義し、何を目標として取り組むのかをすり合わせたうえでプロジェクトを進める必要がある。そうしなければ、継続的に施策を改善し、目標に近付けることが難しくなってしまう。

参加者の声のなかで印象的だったのは「まず営業に興味を持ってもらうことを意識している」というもの。
マーケティング部門から業務の依頼をする前に、営業部門が興味を持つような情報を提供する。業界の動向や顧客との面談で使えそうなネタなどをカジュアルに共有しておく。
そうすることで営業担当者がマーケティング活動に対して興味を持ち、マーケティング部門からの提案にも耳を傾けてくれやすくなるとのことだった。

営業部門との連携がうまく進まない場合のアプローチとして、参考にしてみてほしい。

ユーザー事例2:ヘルスケア業界における、オウンドメディアを起点としたMAの活用|アステラス製薬株式会社

登壇者

Omni Channel Strategy & Operations Associate Director 小泉 晋之介 様
Omni Channel Strategy & Operations Associate Manager 大石 幸太 様

事例概要

アステラス製薬株式会社(以下、アステラス製薬)は、オウンドメディアを起点としたコミュニケーションを実現するためにMarketoを導入した。
自社都合のプッシュ型コミュニケーションから顧客体験を最重要視したカスタマージャーニー型コミュニケーションへ移行したことで、メールコミュニケーションが量・質ともに大幅に改善した。

製薬会社は、自社の医薬品を病院に直接販売するわけではない。製薬会社と薬局の間に立つ医薬品の卸会社に販売し、卸会社から薬局に販売するという構造になっている。

医師は製薬会社から見て直接的な顧客ではないが、患者に対して処方する立場であるため、製薬会社は医師に対して自社の医薬品に関する情報を提供する。製薬各社がデジタルマーケティングに取り組んでいる今、画一的なメール配信では興味を持たれない。医師にとって役に立つ情報を届け、自社医薬品への理解を深めてもらうためには、医師の属性や行動にあわせてパーソナライズされたコミュニケーションをおこなう必要がある。

このような背景があり、アステラス製薬はMarketoをCRMと連携し、マーケティングとセールスのデータをつないだ。そして医師の情報をリアルタイムで更新し、どのような情報を求めているかを推測したうえで担当MRへ通知した。さらに、自社が優先して提供したい情報に関心を持っている医師をスコアリングで抽出することで、MRの活動効率を高める工夫もおこなった。

所感

アステラス製薬ではオペレーティングモデルとして「パーソナライズされたシームレスなオムニチャネル体験の提供において、業界をリードする卓越性を獲得すること」をVisionとして掲げている。同社はVisionに基づき、医師や患者との関係を構築するための取り組みをおこなったことがうかがえる事例だった。

パーソナライズされたメールを配信するには、アクティビティログの蓄積やスコアリングの設計、実際に配信するコンテンツの制作など、実現に向けて着手すべきことが多い。本プロジェクトを成功させた背景には、確固たるマーケティング戦略と推進力があったのではないだろうか。事業の成果が患者の健康という社会課題に直結する製薬会社だからこそ、このような大規模プロジェクトを成功させられたのだと感じた。

グループディスカッションの様子

グループディスカッションのテーマは「頑固な営業を変革させるために我々ができることとは」。新たなツールや施策に対して営業がスムーズに対応できないケースについて、参加者同士で自社のエピソードを交えた情報共有が活発におこなわれた。

マーケテイング部門と営業部門の連携が取れていたとしても、営業担当が多忙で新たな取り組みに時間を割けないことは多い。これまで通りの営業活動を継続しつつ、新たなツールや施策が加わるとなると、心理的な抵抗感は少なからず生まれてしまう。マーケティング戦略上の重要性は理解していても、新たに使い方を学習し、業務を大幅にアップデートすることは容易ではない。

テーマでは「変革」という言葉が使われていたため、日々の業務レベルだけでなく、俯瞰した視点で自社事業を捉えてもらうための意識変革についても話題が広がった。新型コロナウイルスの影響で対面営業が難しくなった時期を経て、メールやデジタルツールを活用する必要性は増した。デジタルを活用したコミュニケーション技術は日々進化しており、行動制限が緩和された今も営業担当にはデジタルを駆使して活動するよう意識を変革してもらう必要がある。

Marketo担当者としては、デジタル活用の大きな波を失速させることなく、マーケティング活動を通じて自社事業の成功へと寄与していきたいところだ。

MUG Day全体を通しての感想

会場には多くのMarketoユーザーが集まっており、悩みを共有できる場としてグループディスカッションも盛り上がりを見せていた。事例紹介とグループディスカッションでは「マーケティング部門と営業部門との連携」がテーマとなっており、少人数で動いているMarketo担当者が抱えている悩みを生の声として聴くことができた。

マーケティング部門は事業への貢献を証明することが難しく、部門間の壁にたびたび阻まれる。こういった問題を現場レベルのコミュニケーションだけで突破することはなかなか難しいだろう。マーケティング推進をスムーズに進めるためにも、部門間連携がスムーズに進むような組織体制づくりを試すのも良いかもしれない。

パワー・インタラクティブでは、これまで160社以上にのぼる企業のMarketo活用を支援してきた。その経験を通じて、Marketoユーザーが直面しやすい課題やその解決方法をナレッジとして蓄積している。
デジタルマーケティング推進の糸口が見えなかったり、部門間連携で壁にぶつかった際には、パワー・インタラクティブまで相談してほしい。

写真1:パワー・インタラクティブ集合写真

マーケティング・ダッシュボード・パックについて

今回のMUG Dayでは、パワー・インタラクティブが提供している『マーケティング・ダッシュボード・パック』を来場者に紹介した。
データ集約とダッシュボードをパッケージ化することで、設計や実装にかかる時間を大幅に削減し、短期間でマーケティングデータ基盤を構築するサービスだ。

マネジメントやマーケティング、ABM、効果検証、セールス向けと9種類のダッシュボートテンプレートを用意している。マーケティングの費用対効果を見える化することで、マーケティング施策の検証を効率化し、営業部門や経営層に対してマーケティング活動の成果を示せるようになる。

マーケティング・ダッシュボード・パックで実現する収益貢献の見える化は、営業部門との連携強化にも寄与する。マーケティングの収益貢献を見える化し、マーケティング推進を加速させたいと考えている方は、Marketo活用支援とともにマーケティング・ダッシュボード・パックの利用も検討してほしい。

樫尾 雅史

マーケティングコンサルタント

樫尾 雅史

法政大学文学部卒業。制作会社にてWebサイト構築・運営を経験。フリーランスのデザイナーとして活動後、大手食品メーカー系列会社にてセールスプロモーションの企画営業を担当。ヘルスケア関連の事業会社にて自社コーポレートサイトおよび自社ECサイトの運営、医療関連の事業会社にて医師向けにWebサイトやMAを活用したマーケティングを経験。2023年にパワー・インタラクティブに入社。
デザイン思考で顧客のビジネスを好循環の軌道に乗せることがモチベーション。休日は妻と2人の子供と過ごすのが楽しみ。

よく似たナレッジを見る

アドビ株式会社 MOpsとフィールドマーケティングが連携し、マーケティングの生産性向上
組織体制 オペレーション IT

2023.09.23

TOP