インタビュー

【前編】株式会社中川政七商店 活用できないビッグデータに意味はない!複雑かつダイナミックな組織こそが新たな粒を生み出す

株式会社中川政七商店 13代社長 中川 淳氏

今回ご紹介するのは株式会社中川政七商店13代社長の中川 淳氏です。
株式会社中川政七商店様は、1716年の創業以来手紡ぎ手織りの麻織物を扱っている老舗伝統工芸メーカーです。2008年13代目中川淳社長の就任を機に 直営店出店を加速させ、伝統工芸をベースにしたSPA(製造小売)業態を確立されました。また、2009年から「日本の伝統工芸を元気にする!」というビ ジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を展開、「モノ売りからブランド作り」にシフトすることで、伝統工芸に新たな付加価値を与え、業界の 活性化を推進されています。
東京の「KITTE」や横浜の「MARK IS みなとみらい」と最近も出店が続く中、Webに対してはどのように取組まれているのかおうかがいしてきました。

※関連ナレッジ資料※
既存製品の提供価値を再定義するバリュープロポジションのつくり方 をダウンロード
MOps(マーケティングオペレーションズ)に関する実態調査 をダウンロード

顧客は商品を知った後のセカンドアクションとしてWebを利用

事業の中でWebはどのような位置づけにありますか?

Webは、ブランディングの中のセカンドアクションへの対応です。お客様がブランドを知るきっかけは多くの場合は商品だと思うのですが、その先のセカンドアクションとしてWebに進む確率が非常に高いです。
基本的に商品でブランドイメージが作られるのは3~4割ぐらいなので、商品以外でブランドイメージを構築するのに、Webは大きな役割を果たしていると思っています。
商 品だけでは情報量が非常に少ないので、セカンドアクションとなるWebで全貌がわかるようにしています。本来ならブランドごとにWebサイトも分けるべき でしょうが、分けていないのは「この会社はこういうことをしているんだ」ということがコンパクトにまとまってるほうが全貌が見えると思うからです。

また、対B(法人)へのウェイトが高く、対C(一般のお客様)はあまり意識していないということもブランドごとにWebサイトを立ち上げていない理 由の一つです。企業サイトは、2007年に新卒採用が始まったのを機に見直しましたが、それまではキャンペーンサイト的位置づけでほったらかしでした。 2010年に今の形態にしましたが、その時も対Bだけで対Cの情報は掲載していませんでした。お客様によく「商品が載っていない」と怒られましたが、それ は割り切っていました。一般のお客様に向けたサイトにしていなかったのです。

企業サイトは、商品以外の部分は人の顔が見えるように作りました。「人の顔が見える」がキーワードです。一般のお客様に対しての商品情報は楽天で全 部網羅されています。企業サイトで商品をくまなく見せることがいいとは思いません。それならブログで新商品の中でこれというものだけをピックアップして、 ブランドマネジャーの口から商品とその背景、人となりが伝わればいいかなと思っています。企業サイトは「会社押し」なんです。伝えたいのは、いくつかのブ ランドを展開しているというラインナップと、「日本の伝統工芸を元気にする!」というビジョンくらいでしょうか。

facebookのフォロワー数は3万人越え

facebookと企業サイトの活用はどのように棲み分けされていますか?

2010年当時は、facebookが機能していなかったし、あったかどうかも分からない時でしたので、facebookは全く後付けです。通販課が仕 切っているので売る側とのコネクションが強く、販促ツールとして活用しています。担当者は広報も対応しているので、会社の情報も上手く織り交ぜながら投稿 しています。企業サイトとfacebookの役割分担は特に考えていなかったのですが、今後は考えなければと思っています。
facebookも フォロワー数が2万7千人(現在は3万2千人)と結構多く、毎月1千人ペースで増えています。フォロワー数が1万人を超えるのは大変だと聞くので、 facebookへ今後どんな機能を担わせるかを考えなければいけないと思います。 ただし、意図が見え見えなのもどうかと思うので、今の奔放な感じがいいのかどうかも含め、細かいところを詰めていかなければですが、複雑系であることを Webでは表現したいと思っています。

期待してなかったWebも可能性が見えてきた

Webで「中川政七商店」を伝えていく上で、限界を感じることはありますか?

僕はもともとWebを信頼していないし期待もしていないので、限界もありません。 ただ最近は、2013年3月21日オープンしたKITTE公式サイトでのアクセスランキングで、普通は飲食店が上位なのですが、中川政七商店が1位という 状態がオープンから続きました。今は少し落ちましたがそれでも10位以内に入っています。
facebookのフォロワー数1万人越えも含め、中川政七商店のことを見てくれているユーザーは、Webサイトもきちんと見ているという気が少しずつしてきています。
自社ブランドが「遊 中川」しかなかった時代は、ミセス中心のブランドだったので、Webを使うユーザーが多いとは思えませんでした。でも今は「遊 中川」自体が変わってきており、他のブランドも少しずつ増えてきて、ユーザーにWebリテラシーの高い人が多いという感覚があります。そういう意味で、 Webも少しずつ面白いのかなと感じています。今まで「店でのイベント情報を流したところで何人見ているのか」と思っていましたが、今は「もしかしたら、 少しぐらい伝わるかも」という気がします。

ブランド価値を測る拠り所は、本店の売上げ

貴社ではブランドの効果検証をどのようにされていますか?

Webは効果検証しやすいですが、ブランド価値というものは数字で測れるものではありません。
『遊 中川』のブランド価値に関して僕が参考にしているのは、本店の売上げ動向です。本店は偶然入れる店ではなく、わざわざ足を運ばないと入れない特殊な立地の 店です。また東京や大阪に『遊 中川』のブランドを扱った店が多数あるので、本店に行かなければ買えない商品はほとんどありません。それにもかかわらず『遊 中川』本店にわざわざお客様が来てくれています。10年前と比較して売上げは3倍以上になっており、それはリアルに『遊 中川』のブランド力だと思っています。
一方、他店舗の売上は1.5倍止まりです。本店の動きに対し、他店舗は遅れて効果も低くなって現れるというのが、この十何年店舗運営をしてきた実感です。こうした拠り所は自分で見つけるものです。 担当者に「効果を数字で表せ」と言った瞬間から、担当者はその数値だけを目的として作りにいくので経営としては間違っています。Webに限らず全部に当てはまる話ですね。
facebook のフォロワーが1万人を超えて、2万人を超えて、こんなものかという感覚を掴みながら、色々なことと合わせてジャッジしていくのですが、数字を地道に追い すぎるのもどうかと思います。そもそもブランドイメージなんて感覚的なものです。数字で測ろうとすること自体がブランドのことを分かっていないのです。ブ ランドが浸透すれば数字は上がってきますが、それはあくまでも「こんな感じになってるな」ということの確認です。

あくまでも実店舗が軸足。ECの役割は在庫の消化率アップ

Webサイト運営で、外部に委託するのではなく社内でやるべき活動とは何ですか?

弊社の場合、通販課がECをはじめfacebookや企業サイトを仕切っています。ECサイトの運営がメインで、合わせて企業サイトも更新するかたちで す。 こちらから更新依頼を出しますが、サイト運営は3人体制で行っています。ECは楽天と公式通販サイトの2つがありますが、公式通販サイトは外注に委託して います。また、受発注は弊社で対応していますが、公式通販サイトのコンテンツを楽天に流用している部分もあります。 ただ、現在の外注先が東京の会社で遠いとか、費用が高いといった理由で内製化を考えていると聞いています。内製化するかは僕としてはどちらでもよくて、や りやすい方でやってくれればいいと思っています。
ECに関しては、商品の売りが何なのかを伝える部分は当然社内しか分からないので、やらなければ いけません。また、受発注業務は自社でやっています。要は接客業ですから、実店舗をこれだけ持っていると「実店舗の接客はこうだったのに、ECの対応はこ んなものなのか」と比べられます。包装ひとつをとってもそうです。弊社の場合は売上げも圧倒的に実店舗が上で、そちらが軸足なので、ECが足を引っ張るぐ らいならやめてもいいくらいです。

ECの売上げはどのように推移していますか?

2008年度が250万、2009年度が現担当に代わり、体制も含めて仕組みを作り上げたことで、7000万と大幅にアップしました。以降前年比1.5倍 の伸びが続きましたが、2012年度は前年比1.2倍の1億8千万に落ち着いてきています。2012年度以降はパートナー企業の商品も増え、自社商品オン リーの売上げではなくなってきているので、物足りなさを感じますね。

中川政七商店のWeb組織
 サイトオープン
  通販課3名
 業務内容
  EC運営中心 公式通販サイトの更新は外部委託
 EC売り上げ
  約1億8千万円(2012年度)
 通販課(EC)の役割
  在庫の消化率のアップ
 今後の課題
  販売部の小売課、卸課、通販課の横の連携
  2013年5月7日現在

小売りをやってきて、ECが後からついてきたのでEC担当者も売り場のことはよくわかっているのですが、社内体制として、販売部の小売課、卸課、通 販課の横の連携がないのが問題です。3部門が連携して在庫の消化率を上げていかなければならないのですが、うまくいってません。通販課の至上命題は最新商 品を売るのではなく、在庫の消化率を上げることだと言っています。通販では実店舗より2週間遅れで商品が並びます。

企業サイトにおいては、最初の立ち上げ期は僕が入って、外部の制作会社、デザイン会社と一緒に立ち上げています。その後はニュースの更新くらいで す。 根本をいじるときは、毎回外部と一緒にやります。頻繁に手をかけて更新することはありません。WebにはWeb業界のトレンドや技術進歩があると思います が、それは弊社にとっては大切なことではないので、社内で持つ気はありません。こちらがやりたいことを伝えて、それを技術的に解消することを考えてくれる 人を何年かに1回だけ選べばいいと思っています。 企業サイトをどう見せるかは会社をどう見せるかと同様で、経営に近いところになるので、担当者や部署レベルでの話ではないと思います。Web業務の内製化 はECサイトの運営レベルの話です。

プロフィール

中川 淳氏
株式会社中川政七商店 代表取締役社長13代

京都大学法学部卒業後、富士通株式会社を経て、2002年に家業の中川政七商店に入社。
2008年、十三代社長に就任。「遊 中川」「粋更kisara」「中川政七商店」「大日本市」などの直営店出店を加速させ、伝統工芸をベースにしたSPA(製造小売)業態を確立。
2009年からは「日本の伝統工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。
波佐見焼の新ブランド「HASAMI」を大ヒットさせ、業界の注目を集める若きトップランナー。

→ インタビュー後編
インタビュー後編の「活用できないビッグデータに意味はない!複雑かつダイナミックな組織こそが新たな粒を生み出す」では、ビックデータ利用の考え方や今秋に控えている企業サイトリニューアルの構想についてお聞きしています。

TOP